蔵元インタビュー【八千代酒造】

 

旬の地魚“真ふぐ”に合う日本酒醸造に挑戦される萩・阿武地域6蔵元の方々に、蔵の特徴や、マフグに合わせてどのようなお酒を考えられているかなど、仕込みの様子をお聞きしました。

八千代酒造合名会社 杜氏 蒲 久美子 氏




Q. 八千代酒造さんの日本酒の特徴を教えてください

八千代の日本酒は、地元「大将山」の伏流水と自社栽培の減農薬で作る山田錦を使って醸造しています。日本酒造りに中硬水を使うのは、珍しいのですが、味わいがどっしりとした旨味が深いお酒になります。

うちは昔から四段仕込みという製法で造り、ほんのり甘いお酒に仕上がるのも特徴の一つです。通常、お酒は三段仕込みといって、米と水と麹を三回に分けて入れながら造りますが、四段仕込みというのは最後絞る直前に、酒米で造った甘酒を加えます。一日寝かせると甘みが増し全体的に優しい深みがでます。

Q.  真ふぐをテーマにした八千代酒造さんの日本酒とはどのようなお酒になるのでしょうか。

Bd-14無濾過生を合わせたいと考えています。昨シーズン、真ふぐの握り寿司としぼりたてのBd-14無濾過生を合わせて飲んでみたら、とてもおいしかったんです。
真ふぐの旨み Bd-14に備わる酸と甘み 酢飯の酸
この3つが重なることで、口の中で甘みと酸味がバランスよくマッチします。

もともとBd-14は、酸と甘みのバランスが表現されているお酒です。四段で仕込んでいるので、少し甘みもあって、しっかりとした八千代らしい旨味、濃醇な部分があります。それが、握り寿司の酢飯と酸と、更にマフグの旨味に合わさると、とても相性がよく、甘酸っぱいような、マフグと日本酒の繊細なマリアージュが生まれます。

今期のBd-14は、もろみの温度管理を調整し、甘みと酸味をバランスよく、より強調する味に仕上げていきます。

 

Q.  真ふぐのどのような食べ方に合いそうですか?

淡泊な刺身より、握り寿司と合わせて味わってもらいたい。それと唐揚がいいかなと思います。Bd-14は、濃醇なしっかりとした日本酒らしさが残っているので、揚げたものにも負けないお酒になると思います。

あと、地元のお醤油を使った料理アレンジにも対応できると思います。Bd-14は、甘さがあるお酒なので、実は煮物と相性がいいんです。萩だとイワシの甘露煮とか。萩はお醤油が少し甘いので、甘じょっぱく仕上がる煮物にも、このお酒は合うんですよ。



 

ありがとうございます。
ここからは、蒲さんについてお聞かせください。

 

Q. 萩・阿武地区初にして唯一の女性杜氏として活躍されている蒲さんですが、酒造りを始められたきっかけを教えてください。

もともとは、家業を継ぐ予定はなく東京で栄養士をしていました。しかし、父の代の次に継ぐ者がおらず、「このまま終わらせたくない」という思いから、自分が杜氏になる決意をし、萩にUターンしました。それが、2017年5月です。

Q.  蒲さんがお酒を造られる上で大切にされていることを教えてください。

一つ一つの作業をしっかり、細かくすることです。味わいを毎年変わらずに作っていくことは大事にしていますね。特に、にごり酒はファンが多いので、毎年、「今年が一番おいしいね」と言われると嬉しくて、その味を守っていきたいなと思っています。

Q.   新しいお酒「ROOM」をプロデュースしたきっかけを教えてください。

八千代酒蔵は、昔から、にごり酒にこだわりを持っていて、お客様も毎年楽しみにしてくださっています。この八千代ブランドは、変えずに作り続けたいと思っています。
同時に、自分が東京で勤めていたときの経験で、働く女性の友人たちと、夜日本酒を飲んで、色々な話しをして、最終的には「また明日から頑張ろう!」と前向きになれていたことがあるんです。

だから、一生懸命頑張っている人や、働く女性のご褒美になるようなお酒を造りたいと思って、「ラ プラス YACHIYO」という自分のブランドを立ち上げました。八千代ブランドとは、別の酒質で棲み分けをして、自分なりに考えた新しいお酒「ROOM」を造りました。

 

Q. 「ROOM」はどんなお酒ですか?

軽くて飲みやすいタイプのお酒にしています。精米歩合は50%で、すごくお米を磨いているので雑味が少なくて綺麗な味わいです。
コンセプトは、週末の自分へのご褒美のために、お部屋とかでゆったりと飲んでもらって、明日も頑張ろうというような気持ちにしてくれるお酒です。自分の空間や、世界観の中で嗜んで、心豊かな気持ちになってほしいなと思います。

 

Q.  萩・阿武地区の皆さんにメッセージをお願いします。

萩市、阿武町には山田錦を中心に酒米を育てていらっしゃる生産者さんがたくさんいらっしゃいます。八千代酒蔵は、萩で米作りをして、そのお米を萩にある搗精工場で磨いて、地元・萩で一貫してお酒を製造できるこの流れは、全国的にみても珍しいんです。

八千代酒蔵だけでなく、萩・阿武では、6蔵の酒蔵が手を取り合って、生産者さんと一緒に酒米作りをして、萩でしか造れないお酒を造っているので、将来、萩が酒処と言ってもらえるようになると嬉しいです。

昨年「GI萩」に指定されたというのは、世界の人にこの地域を知ってもらえるきっかけになると思っているので、萩の歴史や、真ふぐをはじめ美味しい食材を、日本酒から知ってもらえればと思っています。

 

 

 

酒蔵名 八千代酒造合名会社 
住 所 758-0305 山口県萩市大字吉部下3306番地
電 話 08388-6-0221
創業と酒名の由来について

明治20年(1887年)、山口県阿武郡吉部村(現・山口県萩市吉部下)に蒲酒造場を創業し、昭和29年に八千代酒造合名会社と組織を変更。萩市最古の酒蔵です。現在は、5代目 蒲 久美子氏が酒造りを受け継いでいます。
代表銘柄「八千代」の酒名は、この酒を飲まれる方々が代々繁栄しますようにと祈り「君が代」の一節から名付けられています。
阿武川最上流にあり、すぐそばを阿武川の清流が流れます。酒造りにも、阿武川の水質の良い伏流水が用いられています。