蔵元インタビュー【中村酒造】

旬の地魚“真ふぐ”に合う日本酒醸造に挑戦される萩・阿武地域6蔵元の方々に、蔵の特徴や、マフグに合わせてどのようなお酒を考えられているかなど、仕込みの様子をお聞きしました。

中村酒造株式会社 取締役 中村 雅一 氏




Q. 中村酒造さんの日本酒の特徴を教えてください

辛口の日本酒というのが特徴と言えます。うちは創業当時、姥倉運河そばの現在の場所と、萩市越ケ浜、長門市仙崎の3箇所に酒蔵を保有していました。漁師まちで、漁師の方が飲んでくださってきた酒が、現在も「宝船」が造り続けている辛口の酒です。

酒のもとを、緩やかに発酵させ、辛口に仕上がる段階で絞る。大吟醸、吟醸、純米吟醸を醸造するときも、辛口でくせがなく飲みやすい口あたりの清酒を造ってきました。

 

Q.  真ふぐをテーマにした中村酒造さんの日本酒とはどのようなお酒になるのでしょうか。

実は昨年、純米吟醸の味を変化させたんです。これまでは、純米吟醸酒も辛口になるタイミングまで引っ張って絞るというのが、うちの蔵のやり方でした。でも、昨年、萩・阿武6蔵元が毎年交代で醸す共通銘柄「みがき6」を担当したことをきっかけに、思い切って甘口の純米吟醸酒を仕上げたんです。他の酒蔵さんや消費者の方々との交流もあり、時流に合わせた味わいにチャレンジしました。その結果、好評で完売しました。

今回、真ふぐに合う酒を醸造するにあたっては、昨年の経験やGI萩の地物素材に合うという性質を加味した上で、甘口に変化させた純米吟醸を考えています。
ただ、昨年より甘さを抑えようと考えています。

今期は純米吟醸酒を2本仕込む予定ですが、1本は昨年同様の造りに、もう1本は真ふぐに合わせて、甘さを控えめに調整しています。

真ふぐの刺身や鍋はさっぱりしているイメージなので、うちのもともとの純米吟醸、ピリッと辛さがあるほうが合うと思うんです。昨年好評だった甘口の純米吟醸酒に、これまで中村酒造が培ってきた、辛口ですっきりしている味わいをプラスして、鮮度の良いさっぱりした白身魚の身質を引き立てる酒にしたいと考えています。

 

Q.  真ふぐのどのような食べ方に合いそうですか?

少しピリ辛がいいなと思ったのは、唐揚にも合うからです。ふぐ料理と言えば刺身、鍋、唐揚が代表的だと思うんですが、唐揚にも、ピリッと辛さがあり、さっぱりとした味わいの酒が合うと思います。

 

Q. 2つのタイプの純米吟醸酒を、どのような作業で変化をつけるんですか?

仕上がりに合わせて、米の質の見極めや、作業の最初の段階から一つ一つ微妙に違ってくるんですが、主に絞るタイミングで変化をつけます。この調整は、これまでの杜氏が長年記録し続けてくれたデータのお陰で可能になります。

よく「杜氏は感覚で造るんですか」と言われるんですけど、やっぱり酒造りも化学なんで、記録と検温、分析をしています。自分の前の杜氏は、30年中村酒造の杜氏を勤めた方で、「宝船」の味を変わらず造り続けるために、長年帳簿に記録をつけてきました。

自分が杜氏を引き継いでからも、そのデータを目安に、自分の経験則と照らし合わせて作業の判断をしています。今まで中村酒造が積み重ねてきたベースがあるので、今回のように、ちょっとピリッと辛さ足そうという調整も可能になります。

 

Q.  今回の企画に期待するところはいかがですか?

今まで一つの食材に合わせて酒を造るという経験がないので、最初は難しいなぁと思いました。どのように考えて造ればいいのかわからない。でも、未知のことに挑戦をするから面白味があるように思います。

真ふぐに合わせて造った日本酒の味が、飲んでくれた人に伝わるときが面白い。伝わったとき相手も楽しくなると思う。飲む人の酒の楽しみ方が増える。造り手も飲み手も、面白くなるんじゃないかと思います。

 

 

 

ありがとうございます。
ここからは、中村さんについてお聞かせください。

 

Q.  中村さんがお酒を造られる上で大切にされていることを教えてください。

「宝船」という性質上、飲んで笑顔になってほしい、そういう酒を毎年目指しています。
それと、自分が酒造りを習った杜氏から言われた「毎年一年生」という言葉を覚えています。その年の気候もそうだし、米もかたかったり柔らかかったりと、基本酒造りに例年通りはなく、全てがその年一年生という意味です。
自分も慣れではなく、初心の緊張感をもち、気を引き締めて毎年の酒造りに挑んでいます。

データと経験測で、それに沿わなかったら対処する、その繰り返しですが、時には思ってもみない状態になることもあります。そんな時、今は萩の酒蔵同士コミュニケーションがあるので、助け合いというか、相談しやすく、酒蔵同士の交流のお陰で成長させてもらっています。

 

Q.  萩・阿武地区の皆さんにメッセージをお願いします。

GI萩の指定を受けた、地元萩・阿武のお酒を知ってほしいなぁと思います。
お父さんやお爺ちゃんが慣れ親しんだ酒を受け継いでとは言わない、知っててほしい。
地の酒を飲んで、それをベースに他の土地の酒と飲み比べてみたりして、酒っていうものを愉しんでほしいなと思います。

進学とか就職とかで他県に出たときに、「これうちのお酒です」ってやってもらえるのが一番嬉しいですよ。萩出身の子が、「うちのお酒です」って言って自慢できる地酒を造ろうと思います。

 

 

 

酒蔵名 中村酒造株式会社 
住 所 758-0011 萩市大字椿東3108-4
電 話 0838-22-0137
創業と酒名の由来について

明治35年、幕末期の萩のまちに造成された「姥倉運河」のそばに、初代中村聞輔が創業。今までは季節杜氏が来られて醸造されていましたが、現在は、取締役 中村 雅一氏が杜氏となり酒造りを担っています。

代表銘柄「宝船」の由来
創業当時、姥倉運河そばの現在の場所と、萩市越ケ浜、長門市仙崎の3箇所に酒蔵を保有していました。それぞれの蔵で代表する銘柄の日本酒を醸造しており、3つの蔵が現在の場所に集約するとき、大漁祈願を込めた銘柄「宝船」に統一されました。