蔵元インタビュー【岩崎酒造】

旬の地魚“真ふぐ”に合う日本酒醸造に挑戦される萩・阿武地域6蔵元の方々に、蔵の特徴や、マフグに合わせてどのようなお酒を考えられているかなど、仕込みの様子をお聞きしました。

岩崎酒造株式会社 代表取締役 岩崎 喜一郎 氏




Q.  岩崎酒造さんの日本酒の特徴、酒造りをする上で大切にしていることを教えてください

岩崎酒造の日本酒は、「飲み手とお食事によりそうお酒」をテーマに造っています。仕込み水に使う敷地内に湧き出ている地下水の水質も、非常に柔らかいお水となっているので、それも手伝って優しい酒質、なめらかな味わいに仕上がります。

この特徴を活かすために、原料となる酒米の品質にこだわり、麹造りにおいては吟醸タイプのクリアなお酒に繋がる突き破精タイプの麹づくりを大切にしています。

Q.  真ふぐをテーマにした岩崎酒造さんの日本酒とはどのようなお酒になるのでしょうか。

原料は山田錦を使った純米吟醸酒です。今年、うちの蔵では色々な純米吟醸酒を仕込んでいますが、その中で全く同じ原料で仕込む3本のお酒のうち1本を真ふぐに合わせた造りにしています。

Q.  真ふぐに合う純米吟醸酒は何が違うのですか?

まず香りです。華やかで香り高く吟醸感のある他の2本と違い、真ふぐに合わせた純米吟醸酒は、あえて純米酒に向く酵母を使用して、しっとりと落ち着いた香りにしています。
お酒を単独で楽しむというよりは、今回は真ふぐと一緒に味わってほしいため、香りを抑えて、味重視のお酒になっています。

次にその味わいです。マフグはトラフグに比べると、あっさりとした上品な味の魚だと思うので、酒質は洗練された純米吟醸酒、仕上げの段階で少し辛口にすることで、さらっとした味わいにする予定です。

そして、酸味です。真ふぐのあっさりした甘みに寄り添わせるために、他と比べて酸味を抑えています。酸味が抜けたことで甘みを感じやすくなり、より上品な味に感じていただけると思います。
同じ辛さのお酒でも甘さをより感じるお酒になっているので、ここの少しの甘みの違いが、真ふぐの身の甘さにマッチしてくるんじゃないかと思っています。

Q.  通常の酒づくりと具体的にどのような作業を変えているのですか?

例えば、酸味の点では、もろみを仕込む初期のところで温度を抑えて酸の出方を抑制しました。油を使う料理には少し酸味がたったお酒のほうが合うかなと思ったのですが、真ふぐの場合は白身魚の中でも淡白な味なので、いつもより酸味を控えめにしています。

Q.  真ふぐのどのような食べ方に合いそうですか?

すごく吟醸感の高いお酒というよりは、純米用の酵母を使った落ち着いた酒質になるので、料理に合わせやすいのですが、主にはお刺身や鍋に合うと思います。

 

Q.  今回の企画に期待するところはいかがですか?

今までは一つの食材に焦点を当てるというよりは、白身魚に合わせるとか、幅広く楽しんでいただきたいという造りをしていました。
今回のように、ピンポイントで「真ふぐ」と相手を決めて造ることで、改めてお酒造りの一つ一つの工程を確認し、大切にするようになりましたね。

こういう取り組みをしたことで、今までの「ただただおいしいお酒を作りたい」という思いに加えて+αで、お客様や飲食店の方々にも、お酒の味わいの奥深さであったりとか、お料理との合わせ方で色々な「楽しみ方」「活かし方」があるということをお知らせできたらいいなと思います。
また、この取り組みを通して萩の魅力向上に貢献できたらと思います。


 

 

ありがとうございます。
ここからは、岩崎さんについてお聞かせください。

 

Q. 酒造りを始められたきっかけを教えてください。

大学を卒業して、当時東京にあった国税庁醸造試験所に1年行き、板橋区にある酒類問屋で3年勤めた後、26歳の時に萩に戻ってきました。
当時は自分で酒を造るという明確な目標ではなく、酒造りを手伝いながら営業もするというスタイルでした。自分が生まれたときからいた杜氏が酒を造るのを手伝い、その杜氏が高齢で引退すると、次の杜氏が来ました。
最初に師事した杜氏は、熊毛杜氏という山口県の中で光や田布施のあたりを中心とした杜氏集団で、続いて師事した杜氏は、日置からくる大津杜氏という集団の方でした。
その大津杜氏が引退するとき、自分が杜氏職と共に家業を継ぎました。今思えば、20年近くかけて、二人の杜氏に学べたことは非常に良い経験でした。

 

Q.  萩・阿武地区の皆さんにメッセージをお願いします。

私たちは、昨年GIという認証をいただいたんですけれども、当初は日本全国や海外の方に向けて我々のお酒の品質、良さを知ってほしいという想いが強かったんです。
けれども、手続きを行っている最中であったり、実際に認証をとってみると、改めて地域との深いつながりを再認識しました。

お米も、お水も地域から産出する原料を使っている、自分たちが日々お酒を造っている環境を振り返る中で、地元の方々にもっと大切にしていただかなくてはいけないなという気持ちが芽生えてきました。

ぜひ地元の皆さんに楽しんでいただけるようなお酒にしていきたいと思っています。

お酒っていうのは、そのものがおいしく楽しめるものではありますが、コミュニケーションの手段であったり、日本の伝統の神事に使われるものでもあるので、人と人とを繋げていく役目があります。
お酒の味わいを楽しむだけではなくて、コミュニケーションの道具として、しっかりと活用していただけると嬉しいです。特に今はコロナでそのような機会も減っていると思うので、いままでの何気なく楽しんでいた酒席であったり、会食の場をより大切に楽しんでいただけたらと思ってます。

 

 

酒蔵名 岩崎酒造株式会社 
住 所 758-0047 山口県萩市大字東田町58番地
電 話 0838-22-0024
創業と酒名の由来について

1901年(明治34年)、初代・岩崎小左衛門によって創業。現在は、岩崎喜一郎氏が杜氏職と共に引き継ぎ、蔵元杜氏としての酒造りを続けています。
代表銘柄「長陽福娘」は、創業当時岩崎家に女の子が続けて誕生し、彼女らが福々しい良い子に育つようにと願いを込めてつけられました。